桐生・重伝建の観光振興  受け入れ強化へ連携を

桐生・重伝建の観光振興  受け入れ強化へ連携を
       

意匠が秀逸だったり、地域色が顕著に表れていたりする町並みの中で、特に守っていく価値が高いとされる国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されている桐生市本町1、2丁目に新年度、情報発信拠点が完成する。表通りの無電柱化も完了する見通しで、大がかりな事業に一区切りが付いて誘客増に期待がかかる一方、空き家対策や駐車場不足といった課題も顕在化している。観光客の受け入れ態勢強化と町並み保全の両立に向けて、地域住民と行政のより強固な連携が求められている。
本町1、2丁目と桐生天満宮のある地区は、江戸後期から昭和初期に建てられた織物産業に関わる建造物が数多く残っており、2012年に重伝建に選定された。昨年9月には天満宮が国重要文化財に指定された。市は重伝建を「桐生の顔」として売り出すため、魅力アップのための整備を進める。
明治建造の「旧真尾邸」を情報発信拠点として改修し、観光客だけでなく、住民にも活用してもらう計画。メインストリートの本町通りでは、県が天満宮から有鄰館までの区間を無電柱化するほか、道路を石畳風に仕上げる。
こうした整備や新規出店の足かせとなっているのが空き家の存在だ。所有者との合意形成が難航し、本町通りの工事にも遅れが生じた。今後のにぎわいを見込んだ出店希望があっても所有者が分からず、断念するケースも少なくない。21年の調査で本町1、2丁目を含む地区の空き家率は8・7%だった。
駐車場不足も課題に挙がる。重伝建にコインパーキングはなく、私有地への無断駐車が住民とのトラブルとなってきた。観光地化が進めば、より需要が見込まれるが、基本的に重伝建の建物は取り壊せないため、用地確保は難しい。
問題解決に向けて、住民らでつくるNPO法人「本一・本二まちづくりの会」が積極的に関与している。町並み保全のために活動し、重伝建選定の原動力となった同NPOは、コロナ禍を経て40代を中心とした若いメンバーに世代交代した。
昨年から2カ月に1度のペースで公開の情報交換会を開き、空き家情報や新規出店の動向を共有している。今年から会員が地元を巡って、所有者を含む空き家の実態調査に取り組んでいるほか、空いている月決め駐車場の活用を進めていく考えだ。
斎藤直己理事長は「空き家を借りたくても、誰に連絡していいか分からなかった。放置すると朽ちる一方で、所有者と借り手をつないで一軒でも多く守りたい」と話す。
フットワークと柔軟性を生かした住民運動が盛り上がりを見せる中、市への期待も高まっている。開業や移住時に使える補助制度のさらなる周知は、空き家活用の呼び水になるだろう。車からバスに乗り継いでもらう「パークアンドライド」の促進は駐車場不足への対策となるだけでなく、環境負荷の低減にもつながるはずだ。
趣ある景観と織物産業で発展してきた歴史が調和する町並みは、先人から受け継がれた桐生の宝だ。次世代に残していくためには、持続的な保全と活用が欠かせない。官民が同じ目標に向かって足並みをそろえ、知恵を出し、補い合う関係の構築が持続的なまちづくりの鍵を握っている。

  

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