石畳の路地が風情を感じさせるみなかみ町湯宿温泉。往時は浴衣を着た観光客が路地を闊歩(かっぽ)していたが、今は人影もまばらだ。人口減少が進み、衰退する温泉街を盛り上げようと、移住者やUターン者が中心となって人を呼び込む動きが活発化している。
2025年9月中旬、湯宿温泉内の公園「ゆじゅく温泉ゆうえんち」で、「湯宿温泉シネマ」が開かれた。巨大なスクリーンに米コメディー映画「スクール・オブ・ロック」が上映され、家族連れらが心地よい風を感じながら和やかに観賞した。
温泉街の活性化に取り組んでいる住民団体「ゆじゅくらぶ」が、18年から毎年夏に開催しているイベント。県外から毎年のように足を運ぶファンも増え、交流人口の増加につながっている。メンバーで、Uターンした本多駿也さん(30)は「外の人に湯宿を知ってもらうきっかけになっている」と手応えを話す。
本多さんは米国の大学を卒業後、高崎市で会社員として働きながら、イベントに関わるようになった。帰国後に地元の良さを再認識した一方、寂れていく様子を目の当たりにし、「地元を元気にしたい」という思いが強くなっていったという。いずれは父が営む理髪店を継ごうと考えていたため、23年に妻、娘と同町に移り住んだ。
小学生の頃は、温泉街を歩く浴衣の客にあいさつしながら学校から帰っていたという本多さん。現在は宿泊客も大幅に減り、昔の光景は見られない。「働く場所が限られ、アパートもない。生活したくないというループに陥っている」と説明する。
少しでも地域の魅力や空き家情報を発信して移住者を呼び込みたい―。そんな思いで、24年に移住促進サイト「のぼせる湯宿」を本多さんら住民有志が開設した。住民の赤裸々な声を伝えていることで注目され、メディアにも取り上げられた。
サイトを作った手島拓実さん(32)も、都内からの移住者だ。大学卒業後に都内のデザイン会社で働いていたが、「ゆったりとした暮らしがしたい」と地方への移住を思い立った。妻の実家がある新潟県や都内へのアクセスを考え、みなかみ町内を見て回っていたところ、湯宿温泉の風情ある街並みに引かれた。
空き家問題に関心を持っていたこともあり、「街並みや温泉のポテンシャルは高い」と感じた。21年に夫婦で同町に移住。22年にもともと美容院だった2階建ての空き家を改装し、デザイン事務所を併設した植物カフェ「PLANTS&COFFEE ね」を開業した。ここでは、ゆじゅくらぶの広報やPR、移住サイトの運営などを担っている。
イベントや移住サイトをきっかけに、湯宿温泉に関心を持ってくれる人は町内外に広がった。今後の課題は、「地域が自走する仕組みをつくること」だと本多さん。人口減少で住民1人当たりの区費の負担が増えるなど、従来の地域活動は限界を迎えつつあるが、「外から人を呼び、お金を落としてもらって地域を回していけるよう、対策を考えていきたい」と力を込める。
【メモ】25年後に人口半減か
みなかみ町は2005年、月夜野町、水上町、新治村が合併して誕生した。2町1村の人口は1955年の3万5696人をピークに、2025年11月末で1万6602人まで減少。50年には半分の約8000人となり、高齢化率は54.6%に達すると推計されている。
町は、新幹線で通勤・通学する費用や、空き家改修費用などを補助し、人口流出の防止と移住の促進に力を入れている。
