7割に迫る高齢化率や人口減により、民間の有識者団体の報告で自治体としての「消滅可能性」が全国一高いとされた南牧村で、村内の課題を前向きに捉え直す動きが出ている。養蚕農家など大型の空き家を活用した起業や、村立の義務教育学校での特色ある少人数教育の実践などに注目が集まる。村民の幸福度が高いとして研究者の関心も引きつける。人口減に歯止めをかけるまでには至っていないものの、村は「背伸びをしない」おおらかな姿勢で存続の道を探る。
空き家を改修した民宿「Matty(マッティ)の古民家」が2023年にオープンした。大泉町出身で高崎市から移住した小林真奈さんが、特技の占星術を生かし、人生相談ができる宿として集客する。女性を中心に全国から予約が殺到し、2年先まで埋まる。
古民家の宿を始めようと物件を探し、条件面や村の移住コーディネーターによる丁寧な物件紹介が気に入り、移住先に決めた。小林さんは「ご近所とのつながりがあり、一人ではない感じがする」と住み心地の良さを説明する。宿泊施設としての立地は「はるばる遠くまで来たお客さんが自然に囲まれ、静かな古民家で自分を見つめ直す環境があるのがいい」。非日常に浸れる環境は、むしろ特別感となって喜ばれるという。
◎村が仲介役
高齢者施設に転居する高齢者の増加が追い打ちをかけ、空き家は増え続ける。村によると、空き家調査を始めた11年(いずれも9月末時点)は368戸だったが、2度目の19年は597戸。この間に増えた空き家の数と、ほぼ同数の世帯が減った。現在3度目の調査を取りまとめ中だが、さらに増えると推測する。
空き家の利活用を期し、仲介するのが南牧山村ぐらし支援協議会だ。村内に不動産業者がないため、村の委託で仲介役を担い、当事者間で賃貸や売買を契約してもらう。運営する古民家バンクの成約数は、事業を始めた14年から計41戸となった。
毎年数戸の成約につなげているが、空き家を減少させるのは難しい。現在20戸をホームページ(HP)に掲載しているものの、水回りなどの改修が必要な家がほとんどだ。もともと養蚕農家だった住宅は、移住希望が多い単身や核家族には広過ぎて、マッチングが難航しがちだという。
◎大規模農家も需要
村移住コーディネーターの大井川聖心(さとみ)さん(26)は「業者だったら取り扱わないような条件の良くない物件もHPに載せている」と話す。以前には竹細工の作業場として農家が暮らした大規模住宅の需要があり、「こちらが想像もしていない使い方もあるようだ」と驚く。
村人口は1960年(国勢調査)は9602人だったが、主産業の養蚕業や林業の衰退などにより2020年には1611人に減った。今年11月末の住民基本台帳では1371人、高齢化率67・8%となった。
日本創成会議(増田寛也座長)は14年5月に同村を含む消滅可能性都市を発表した。これを踏まえ、人口戦略会議(三村明夫議長)は人口の移動がない自然増減を仮定した「封鎖人口」を加味し、24年4月に発表したリポートで同村が全国で最も消滅の可能性が高いと位置付けた。
長谷川最定村長は「リポートが示す数値は否定しないが、分母となる人口が少ない分、1人の移住、1人の出生によって10年後は大きく変わる。南牧で暮らしたい人を一人でも増やす取り組みをしていく」と語る。
