小説家 はらだ みずきさん(61) =安中市上後閑
山あいにたたずむ安中市内の畑付き古民家を2021年春に購入し、移り住んだ。住宅は自ら改修し、自給自足に近い生活を送る。執筆に励みながら、農作物の栽培や狩猟にも挑戦している。
千葉県生まれ。幼少時代は野原で遊ぶことが好きだった。中学生の頃から本を読み始め、「高校から大学までかなりの小説を読んだ」。大学卒業後は都内の商社、出版社に勤務。06年に『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』で小説家としてデビューした。
ベストセラーとなった田舎暮らし小説『海が見える家』は同県の南房総の海辺が舞台。シリーズ化して展開する中で、「舞台を海から山に移そう」と考えたのが移住のきっかけだった。「いつか畑や山を持つ田舎暮らしをしたい」との自身の夢も後押しした。
「小説なんだから想像して書けばいいじゃないかと言われることもあるが、やっぱりウソは書けない。実際に自分がやってみて、実体験に基づいた、よりリアリティーのある小説を書きたい」。空き家バンクの中から条件に合った現在の物件を見つけ出した。
手に入れた家はしばらく人が住んでおらず、荒れ放題だった。試行錯誤しながら、屋外にまき風呂、屋根には太陽熱温水器を、量販店で材料を買い求めて自らの手で作った。書斎にはまきストーブを設置した。敷地内の梅畑も再生し、農薬や化学肥料を使わない自然栽培に取り組む。
縁もゆかりもない移住先は高齢化が進む限界集落だが、暮らし始めると、居心地の良さに気付いたという。「なんでこんなに親切なのだろうと思えるぐらい人に恵まれている」と目を細める。「自然豊かな群馬で、自然の一部である人の温かさや純粋さ、おおらかさをすごく感じている」
移住後、新たに書き上げた小説は『山に抱かれた家』など4冊となった。「ここでの暮らしがあるからこそ書けた」と充実の表情で振り返る。「これからも田舎暮らしを研究し、作品を書き続けたい。小説の執筆以外でも、田舎暮らしに興味があったり、移住したりしたい人たちに田舎の良さを伝えたい」と熱意を込めた。
【マイ・フェイバリット・群馬】妙義山や伝統行事 ギザギザな山容に驚き
日本三大奇勝に数えられ、ノコギリのようにギザギザとした山容が特徴の妙義山。安中市を訪れ、初めて目にした時は「あんな山が日本にあったのか」と驚いた。
上毛三山のうち、赤城山と榛名山は登頂した。残すは妙義山で、いつか登ってみたい。繭玉を焼いて食べる伝統行事「どんどん焼き」も移住後に初めて体験。毎年招かれ、繭玉を自分で作れるようになった。
