「ここでしかできないものを」 アートで地域つながる

「ここでしかできないものを」 アートで地域つながる
       

国内外のアーティストが地域に滞在して制作した作品を飾る国際芸術祭「中之条ビエンナーレ」が開幕した。2007年以降2年に一度開催し、今回で10回目となる。前回(23年)は初回の約10倍に当たる48万人が来場し、出展を機に移住した作家も増えた。アートを通じて生まれた作品と人々のつながりが、地域の魅力と価値を豊かに耕している。10月13日まで。

養蚕にまつわる言葉をかたどった絹糸が、天井からしたたる雨の滴のようにつるされた作品。中之条にゆかりのある真田家に仕えた忍者から着想を得た木版画による立体彫刻。亡くなった母を供養するように彼女が幼少期に通った校舎を彩る抽象画。空き家となった商店街の一角や文化財の旧家など、五つのエリアの50カ所で国内外147組の作家が作品を展示する。

今回のテーマは「光ノ山」。かつて絹産業や鉱山が盛んだった中之条の風景を理想郷と捉え、現代アートを通じて土地の未来を描くことを掲げる。

中之条ビエンナーレは作家が10日以上町内に滞在して制作することを参加条件とする。出展希望者の作品集などから事前審査して150組程度に絞った後、展示場所を作家と共に決めていく。近くには事務局が手配した滞在地も確保され、作家は町内の祭りに参加したり、町の歴史や習俗を学んだりしながら制作に励む。倒れたご神木や昔使っていたレコードなど、町内にある廃材や住民の思い出の品がアートとして活用されることも魅力だ。

「アトリエから作品を持ってきて展示するだけでは駄目。滞在してもらい、ここでしかできないものを作ってもらっている」と総合ディレクターの山重徹夫さん(50)は狙いを語る。審査では「自分なりの美の基準がある人」と「この土地で何かできそうな人」を重視するという。

ビエンナーレは山重さんが作家仲間と手弁当で立ち上げた。その縁でふるさと交流センター「つむじ」のプロデュースを任され、「誰も来なくても毎日椅子を100個並べた。すると人が集う場所になり、つながりが爆発的に増えた」と振り返る。当初から『場づくり』に力を入れ、「企画するとその実現のために必要な人が集まってくる。自分はついているんです」と笑う。

1回目の開催から約20年となり、移住した作家が新たな展示施設を始めるなどアートが地域に新たな風をもたらしている。山重さんが次に目指すのは作家が滞在を超えて長期間居住する「アーティスト・ビレッジ」をつくることだ。「つくる・つながる・発信する―ができればビレッジになると信じている。中之条はアーティストにとって天国みたいな場所。きっと実現できる」と見据える。

会期中は無休。鑑賞パスポートは全期間用が3千円、平日のみは2千円、高校生以下は無料。問い合わせは事務局(☎0279・75・3320)へ。

◆ライブパフォーマンスやワークショップ
◎ジブリ美術監督武重さんが実演
会期中はアーティストによるライブパフォーマンスやワークショップが開催され、会場を回るバスツアーも人気だ。
10回記念と銘打ち、18日にはスタジオジブリで美術監督を務め、作品も出展している武重洋二さん(61)=前橋市=によるワークショップが開かれた。
武重さんは自身が担当した「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」などの作品で使われた背景画の実物を示しながらアニメ映画の作り方を説明。大量の作画が必要な映画美術ならではの技法で青空に浮かぶ白い雲の描き方を実演した。県内外から参加した15人はプロの技術に目を輝かせていた。

  

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