未来思う視点生まれる 地域と縁、交流スペース  

未来思う視点生まれる 地域と縁、交流スペース  
       

林 史泰さん(52) =高崎市並榎町 建築設計事務所「イデアプラス」代表くらしまち財団たかさき主宰

高崎市岩押町に地域交流スペース「SO.ラボ」を立ち上げ、まちづくりに民間の視点から携わっている。「100年後の地域の未来を想像したい」。人と人、人とまちのつながりから無限の可能性が生まれると信じ、地域のリ・デザイン(再設計)に取り組んでいる。

東京都品川区出身で「地方を知らずに育った」。都内の大学で都市計画を学び、アトリエ事務所を経て1級建築士の免許を取得。28歳で独立し、イデアプラスを創業した。大手外食チェーンの全国展開プロジェクトをはじめ、商空間や医療、オフィス、住宅などの設計に携わった。

走り続けた30代だった。顧客から建物や空間の相談があればすぐに複数のアイデアを提示した。寝る間も惜しんで仕事に没頭した。充実していた一方で、精神的に限界を迎えていたのもこの頃だった。

転機となったのは、2011年に高崎市出身の妻、万寿美さんの里帰り出産で高崎を訪れたこと。都心部に比べて物価は安く、人が温かい。関越道を群馬方面に走ると、心がふっと安らぐような感覚がした。

40歳で移住。高崎駅東口近くに建築事務所のサテライトオフィスを設け、原宿にあった本社も東京駅近くに移した。「なんで群馬なんですか」。周囲からはそう言われたが、都内まで新幹線で約1時間で、「田舎と都市が共存する」高崎には、本質的な豊かさがあると感じたという。

「それまでは目の前の仕事に追われ、2、3カ月先のことしか考えられていなかった。地域の人とのご縁が生まれて、20、30年後の未来を誰かと共に想像する楽しさが生まれていった」

20年、持続する暮らしやまちを考える場として「くらしまち財団たかさき」を設立。オフィス、図書館、カフェ、民間学童が共存する複合スペース「SO.ラボ」を運営している。民間学童ではアーティストや音楽家、映画監督などクリエーティブな人材と一緒に子どもたちの放課後の在り方を模索する。加えて、SDGsを題材にした映画の上映会など大人の学びづくりに取り組む。

娘が通った高崎中央小ではPTA会長を務め、保護者と学校、地域の新たな在り方を模索し、実践してきた。同市末広町に昨年完成した複合施設「ララパーク スエヒロ」の設計を担当し、障害の有無にかかわらず共生する社会を目指す「エコール・ド・アカネ」の活動にも携わっている。今後は米国で1950年代に流行した実験的住宅プログラムである「ケーススタディハウス」を研究し、高崎で実践できたらと考えている。

「かつて白衣観音や群馬音楽センターができた時、当時の高崎市民は100年後の未来を思う視点を持っていた」と考えている。「われわれ現役世代も次の100年の地域のビジョンを考えたい」と意気込む。

【マイ・フェイバリット・群馬】人の優しさが魅力 さまざまな団体所属
高崎観光協会やロータリー、町内会、高崎神社敬神会などさまざまな団体に所属しており、地域の人の優しい人柄が群馬の魅力だ。本業である建築分野とは一見離れた取り組みが、巡り巡って自分の人生の糧となると感じている。「東京の時の人間関係は、大学の友人かビジネス関係のみだった。地域で暮らす人とのつながりが、地方の本質的な豊かさだと思う」

  

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