東京に生まれ、四半世紀を過ごした横浜から、血縁者ゼロ、知人や縁もないに等しい群馬へ移住した。2020年12月。時はコロナ禍。「唯一の友だちは上毛歌壇だった」と笑って振り返る著者が、本業である経済評論家の視点や団塊世代の悲哀、自身の経験から見えた本県の魅力を、短歌にしたためた。
19年に心筋梗塞を患い、大手術を乗り越えた。医師から告げられた「3密回避」を守るため、一念発起して移住を決めた。
NHKアナウンサーとして全国を回り、転職後はテレビ東京で「ワールドビジネスサテライト」を制作するなど、さまざまな土地の特徴や魅力を知った。現在の仕事と年齢を重ねていく今後を考え、ついのすみかに前橋を選んだ。「セカンドライフ移住の助言にもなればうれしい」と話す。
同書は6章立て。社会の出来事を鋭く捉えた作品や趣味の旅、職場の機微を表現したくすりと笑える歌などテーマは多彩だ。
タラちゃんがサザエさん一家支える少子高齢化社会
ラストランは満員あとは閑古鳥だけ乗せていたローカル線去る
ハローワークで立ち尽くす中高年人手不足と言いながら なぜ
「職業柄、出来事を細かく見ることが身に付いており、短歌作りとリンクした」。投稿先の選者から誘われ、結社に参加するようにもなり「新鮮な歌心が育まれる」と刺激を受けている。
投句や群馬との出合いのきっかけにもなったコロナ禍は「混沌(こんとん)の日々を残しておきたい」と、第4章「忘れたコロナ あの頃の記憶」として、読んだ時期を入れて紹介する。
来なくても支障なしとコロナ以後居場所なくなる中高年(2020年春)
そう言えば下半身はまだパジャマだった ズーム会議に忙しき日(2021年夏)
効果より世間気になりマスクするいまだコロナは心にひそむ(2023年夏)
現在も都内と九州で経営塾を開講するなど忙しい日々だが「群馬に帰るとほっとする」と話す。「居住地を変えると、ライフスタイルも趣味も嗜好(しこう)も、何より人生観が変わる」と微笑む。
住みやすいこんな土地へとたどり着き神様のご褒美と思う日々
「短歌で詠むニッポン マーケティング目線の三十一文字」は文芸社刊、1100円。
にしむら・あきら 1956年、東京都出身。早稲田大卒業後、NHKアナウンサーやテレビ東京解説委員を経て、現在は経済評論家として経営者セミナーの主宰や千葉商科大教授として活躍。「日本が読める国道16号」や「ポスト・イット知的生産術」など90冊以上の著作があるが短歌集は初めて。