太田市台之郷町 古民家をアート拠点に 若手 世に出す後押し

太田市台之郷町 古民家をアート拠点に 若手 世に出す後押し
       

東武伊勢崎線韮川駅(太田市台之郷町)のすぐ前に、古民家5棟からなる「OTA ART GARDEN(太田アートガーデン、OAG)」が建つ。クリエーティブディレクターの中村政久さん(75)=同市=が、昭和初期の店舗や蔵を2019年にギャラリーとして再生させた。「地元の若いアーティストを世に送り出す拠点」を目指す。

太田市の人口は7月末で22万2千人あまり。機械工業が盛んな地域で就労や転勤を機に流入する子育て世代も多い。ここ10年は大きな変動はないが、中村さんは「実利だけでなく潤いをプラスすることが、これからの街づくりに欠かせない」と指摘する。

中村さんは太田高校から東京芸大美術学部に進み、電通に入社。アートディレクター、クリエーティブディレクターとして企業の広告やブランディングを手掛けた。世界中を駆け巡り「故郷を顧みることはあまりなかった」と振り返る。

祖父が興した駅前の米穀・肥料店は1930年代に建てられた。商売を続けていた母が入院したのを機に、老朽化した建物のこと考るようになった。「せっかくなら地域に広がる場所にしよう」と決めた。

改装に当たっては、芸大時代の友人の縁で、慶応大で建築を学ぶゼミ生に教材として各過程を体験してもらった。予算管理など学生が不得手な部分は中村さんが支援した。「『仕組み』を考えるのが楽しい。若者が活動する場をつくるのも一種のデザイン」と語る。

ギャラリーを運営する中で、良い感性を持つ地元の若いアーティストが、なかなか表に出てこない現状に気付いた。「地方のプロデューサーとして、ちょっとしたきっかけをつくってあげたい」。交通利便の良さを生かし、若手と都内の関係者とを結び付けている。

建築関係者ともつながりができた。人口減などに伴い空き家の増加が全国的な問題となる中、OAG開設の経験を生かし、古民家をアーティストの制作・展示拠点として活用することを模索している。

古民家再生を手掛ける新明工産(館林市)が建築中の、古材を使った巨大なモデルハウスにアイデア段階から携わる。同社の新井和勝社長(58)は「古い車を現代の技術で乗りやすくする『レストモッド』の、いわば住宅版」と方向性を語る。

中村さんは「地方の古民家を使いやすくリノベーションすれば、全国のクリエーターを呼び込む仕掛けになる」と見据える。
今春、ギャラリー内にコーヒー豆専門店「マグノリアコーヒーロースターズ」(太田市八幡町)が支店を開いた。富岡恒久代表(59)は「豊かな暮らしを提案したいという思いに共感した」と理由を話す。

周辺は駅利用者の往来はあるものの、人が留まるような場所がない。中村さんは表にベンチを置き通行人が過ごせるようにした。「アートが目的でなくても気軽に立ち寄り、やがて興味を持ってもらえたらいい」。

【メモ】空き家 県内に16万戸
2023年の住宅・土地統計調査によると、本県の空き家数は16万1300戸で5年前に比べ3000戸増えた。空き家率は16.7%で全国平均の13.8%を上回る。古民家の利活用に向け、県や民間事業者が協力し所有者と活用希望者を結び付ける仕組み「コミンカコナイカ」が始まった。桐生・みどり、渋川、富岡、鬼石、嬬恋の5地域で、地域活性化や魅力的な街並みの創出に取り組んでいる。老朽化により取り壊さざるを得ない物件でも、梁(はり)や柱などを部材として活用する。

  

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