後閑山荘運営 神津 治生さん(64)明美さん(61)=安中市下後閑
「古民家に住みたい」―。定年退職を契機に、憧れを実現したのは神津治生(はるお)さん(64)、明美さん(61)夫妻。安中市下後閑の養蚕古民家を2023年2月に購入し、明治期に建築されたと伝わる母屋や土蔵を改装した。多目的文化交流施設「後閑山荘」として再生させ、24年5月に埼玉県朝霞市から移住した。
山城歩きと温泉巡りが趣味の夫妻は本県内を度々旅行し、なじみがあった。特に川原湯温泉を気に入り、ドライブで繰り返し訪ねるうち、道中に点在する古民家に気づいた。かつて盛んだった養蚕をほうふつとさせるたたずまいに安らぎを覚え、魅せられた。
インターネットの空き家検索サイトで調べると、気になる物件を見つけた。以前訪ねた山城「後閑城」のすぐ南方だった。縁を感じて内覧すると、母屋と土蔵の位置関係や外観、内装ともすぐに気に入った。
公務員だった明美さんは生涯学習に関わる仕事に携わった経験があり、古民家に住みつつ、地域との文化交流を深める場所にしたかった。治生さんも同じ考えだった。約70畳の広さがある母屋2階や味わい深い土蔵の空間を生かした催しに向けて知恵を絞った。
古民家は「後閑山荘」として24年11月に開業。土蔵では養蚕にまつわる企画として最初に着物展を行い、今年3月には絹を使ったつるし雛を華やかに飾り付けた。母屋2階もヤマブドウの籠やヨーロッパ発祥の装飾品の展示、歴史を学ぶ講演会と幅広いジャンルで活用している。画家や障害者のアート作品展もあり、そこで使う展示用パネルは治生さんが自作した。
日常の生活空間である自宅で多種多彩な催しを開くことに対し、「さまざまな人々が出会い、ここで新たなつながりが生まれる。元気をもらえる」と2人は喜ぶ。都会にはない古き良き日本の生活文化が残る地を気に入り、住民の温かさに感謝する。
一方で、進行する過疎化を肌で感じている。後閑山荘の取り組みが周辺の空き家となった古民家への関心が高まる機会となり、有効活用の一助にもなればと願っている。「この地を選んだ務めとして、後閑地区の風土や日々の暮らしを多くの人に知ってもらいたい。結果的に、地域の活性化に少しでもつながればうれしい」
【マイ・フェイバリット・群馬】
◎後閑城址公園 山城の形生かし整備
後閑城は、戦国時代に西上州の要城として存在した。公園は歴史考証に基づき、当時の形状を生かしたまま整備され、山城ファンの間でも高く評価されている。
古くから交通の要衝で、行き交う人々を見張ったため展望がとても良い。遊歩道を散策しながら体感できる城域の広さは魅力。桜の名所として地域を盛り上げる地元住民の努力もすごい。