藤岡市鬼石地区 中山間地の田舎暮らし 民泊で住民と交流機会

藤岡市鬼石地区 中山間地の田舎暮らし 民泊で住民と交流機会
       

「果樹のある庭の自宅兼店舗でヘッドスパサロンをやりたいという夢がかなった」。古谷麻子さん(42)は2023年5月、東京都杉並区から藤岡市鬼石地区に夫の如弘(ゆきひろ)さん(43)、長女の楓(そよぎ)ちゃん(3)と移住した。ウメやサクランボなど果樹12種類が庭に植わる空き家を購入。東京・南青山でヘッドスパサロンを経営していたが、中山間地での田舎暮らしに踏み切った。

鬼石地区は都内から車で2時間弱という近さに豊かな自然があり、市は22年度から「田舎暮らし体験旅」の参加者を募る。市が委嘱する移住定住支援員が運営する民泊施設に1泊してもらい、みそ作りや農業体験のほか、地域の案内や空き家の紹介、先輩移住者との交流の機会を提供する。内容は参加者の要望に応じて決まる。

宿泊先の一つで17年に移住し民泊「鬼石ゲストハウスさんと宿(す)」を営む岩本哲さん(39)は「移住者が鬼石に住んだ後の暮らしがイメージできるように地域や人を紹介している」と話す。体験旅に参加した6組15人が22~24年度に移住している。

同旅の初年度に参加した古谷さんは、民泊「暮らす宿ほしのいえ」に泊まり、多世代の地元住民が集って食事する「おにっこごはん」やマルシェ開催時に合わせて参加。映像クリエーターの如弘さんが19年に鬼石夏祭りの撮影で訪れていた縁もあるが、「移住先を探していても地元の人と交流できることはあまりない。市の職員が地元の人と会う機会をつくってくれて、行くたびに知り合いが増えた」(古谷夫妻)。移住先候補の神奈川県鎌倉市と比べる中で鬼石を選んだ。

如弘さんは受け入れてくれた鬼石への地域貢献と活性化を目指した会社「赤鬼社」を27日に立ち上げる。地域に根付く事業を構想し「みんなで楽しめる場をつくりたい」と意気込む。

古谷夫妻は空き家探しに半年かかった。市職員や地域住民の協力を得たほか、「おにっこごはん」で出会った人から現在の住居を紹介してもらった。

人口が少ない自治体ほど賃貸アパートは少なく、移住者の住居が課題となる。市は24年度、同地区の空き家所有者と思われる人に空き家利活用の意思確認を進め、移住希望者との橋渡しをする空き家マッチング制度「おにしん家(ち)」を始めた。

市職員や地域おこし協力隊が毎週1回打ち合わせし、区長を中心に空き家所有者を人づてに探し連絡を試みている。空き家を提供する意思を確認できれば、市職員や地域おこし協力隊が内覧し居住可能かどうかを判断する。登録された物件は19軒で、空き家の売買や賃貸条件は当事者同士で決める。これまでに3軒成約した。担当の地域おこし協力隊の星野貴男さん(57)は「移住希望者に地域の特性を伝え、空き家提供者にも納得してもらった上で物件を紹介している。お見合いのような取り組み」と説明する。

同地区の人口は16年から毎年(4月1日現在の比較)、100人以上減っていたが、今年は94人減にとどまった。市鬼石総合支所の桜井崇裕支所長(59)は「独自施策の組み合わせで成果が見え始めている。私自身も知り合いづてに空き家の所有者に手紙を書いて連絡を取ったこともある。地道に1軒ずつ取り組むことが必要だ」と力を込めた。

◎過疎対策 矢継ぎ早
【メモ】鬼石地区は、2006年1月1日に藤岡市と合併する前の旧鬼石町。合併後の4月1日の同地区人口は6975人だったが、今年4月1日は4416人で減少率は36.7%と、市内全体の同期間の減少率(13.3%)よりも大きい。冬桜で有名な桜山公園、巨岩・奇岩が並ぶ三波石峡などの名所がある。

市は21年度に鬼石地域活性化協議会(事務局・市鬼石総合支所)を立ち上げ、住民も交えて定住・交流人口の増加を目指す議論を活発化。「田舎暮らし体験旅」、移住定住支援員の委嘱、「おにしん家」と過疎対策を矢継ぎ早に展開する。

  

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